ウィスキー片手に高校時代の思い出・その5 ~アブラコの醤油焼き~

今なら釣れたカレイとアブラコは「煮付け」という発想にもなるのだが、「キャンプで魚と言えば串焼きだろう」ということで、すべての魚を串に刺し、焚火の火の周りで焼くことになった。

不思議と雑巾のようなでかいカレイの味は記憶にないのだが、小さなアブラコの味だけは鮮明に覚えている。
醤油をかけながら焼いたそれは本当にびっくりするほど美味しかった。
魚=塩焼き・・・ちょっと譲歩して焼いた魚に醤油をかけて食べるというのが大人になった今の発想だが、その時は「醤油をかけながら焼く」という調理方法一択だった。

恐らくだが、ウナギのかば焼きのイメージがどこかにあったのだと思う。
醤油をかけながら焼くという作業を繰り返した。

焼きあがったアブラコの味・・・。
これが本当にびっくりするぐらい美味しかった。
キャンプで自分たちが釣った魚という事ももちろんあるだろうが、それでも生まれて食べた魚の中で一番美味しい魚だったのは間違いない。

醤油の焦げた香ばしさ・・・。
焚き火の火・・・。
雑巾を釣ったと騒いだ昼の出来事を笑うみんなの顔・・・。

写真の一枚も残っていないのだが、頭の中にはその時のシーンが匂いや笑い声までも加えられて鮮明に焼き付いている。

魚を食べ終えた頃、曇り空からぽつぽつと雨が降り始めた。

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雨はそれほど大粒のものでは無かったと思う。
食事で使った焚火はそのまま燃やし続けていた。

誰かが持参したウィスキーの小瓶を回し飲みしたことによるちょっとした罪悪感と大人になったような気分。

自分たちだけで手にした食材とそれを食べたことによる達成感。
そして焚火の炎・・・。

リョウ君の「オレは将来医者になりたいんだ!」という話が皮切りだったと思う。
皆が青臭くて熱い夢の話なんかを語り始めた。

スポーツ万能で成績も優秀、英語の発音はネイティブ並みのヒロは何にでもなれそうな気がしたのだが・・・。
ちょっと意外な事に遠い未来の事ではなく
「オレの夢はインターハイへ出ることだ」
と近い未来の事を熱く語っていた。

そんなみんなの夢に対して、部活にも所属せず将来の夢なんかない自分がなんだか恥ずかしく思えてきた。
ただヒロが「あんまり先のことより、今楽しいことをやるべや!」といかにも彼らしい事を言っていた気がする。

なんだか彼のその一言に救われた気がしたし、ちょっとだけ自分の未来にワクワクした事は覚えている。

その日は明け方近くまで語り合った。

いつの間にか雨足は強くなって来ていた。
用意したマキも火がつきにくくなり、それが合図かのように、皆で寝袋に入ることにした。

(つづく)