5年前のとある出来事~その8 ICUで目覚める~

・・・さーん・・・マンボウさーん。
看護師さんが私の名前を呼ぶ声で目が覚めた。

深い眠りだったような気がする。
病院である事はすぐに理解できたし、昨夜救急車で運ばれてきたことも覚えている。
だが、まるでいきなり場面が切り替わった映画のように、前後のシーンのつながりに混乱したような気がする。

むしろこの病院が札幌じゃない事を理解するのに時間を要した。

「胸は苦しくないですか?」の看護師さんの質問に「おかげさまで元気です」と答えた。

ふと、自分の身体を見ると、点滴やいくつかのケーブルがつながれていることに気が付いた。
左手にはカテーテルを通した傷を保護するためか、黒いサポーターのようなものがまかれていた。

両側をピンクのカーテンで仕切られたスペース。
看護師さんの説明によるとそこはICU(集中治療室)らしかった。

携帯はすぐに没収されたはずなのだが・・・携帯に何枚か写真が残っているところをみると、看護師さんに携帯で撮影をしてもらったのだろうか?
この辺の記憶は曖昧だ。

気になっていたのは会社への連絡。
確かこの日は日曜日だったので社には誰もいないため、総務経理のSさんの携帯番号へ連絡するようにお願いしたのだったと思う。
電話を受けた彼女も突然の連絡に戸惑ったことと思う。
見ず知らずの番号からの電話に出てみたら知らない土地の病院から。
そして告げられるのは心筋梗塞で入院しているという情報。

流石に申し訳ないなと思った。

胸の痛みや息苦しさは無かったが、とにかくだるかった。
倦怠感と激しい眠気。
今の事もこれからの事も考える元気は無く、ウトウトと再び眠りについた。

~~~

・・・お父さん!お父さん!
あなた!目を覚まして!!

仕切られたカーテンの隣の大きな声で目が覚めた。
ICUに入っている隣のベッドの家族の方だろう。
頻りと声をかけている。

後日知ることになるのだが、同じ日のほぼ同じ時刻に運ばれてきた方。
同じく心筋梗塞だったらしい。

あー・・・この人が救急車を使っていたから、自分は転送が後回しだったのかなぁと呑気に考えていた。

その時の自分は、その方の事もご家族の事も気遣う余裕が無かった。
いや、余裕がなかったのではなく考える気力が無かったという方が正確かも知れない。

それどころか、なんとなく自分もそんな風に呼びかけに応えられなくなるのかもなぁと妙に冷静にぼんやりと考えていた。

(続く)