5年前のとある出来事~その10 オレは何がしたい?~

ここまで割と詳しく書いているように思われるかも知れないが実は記憶は断片的だ。

思考回路も上手く働かない上に、とにかく意欲というものが沸いてこない。

今までなら風邪で半日休んだだけでも仕事のことが気になっていたのだが、すでに病院に運ばれて数日が経過しているが、仕事の事を何も考えられずにいた。

極端な話、「生きる意欲」すら失いかけていたのかも知れない。
「ダメならそれも運命かもなぁ」と死神が聞いたら枕もとで待機しそうな気持になっていたのだった。

だがそれも日が経つにつれてようやく記憶も思考回路も正常になってきた。

毎日朝夕に巡回に来る若い担当医は相変わらず「予断は許さない!無理は禁物!」とベッドから降りることさえ認めてはくれなかった。

ベッドに横たわりながら、少しずつ思考回路が動き始めた私は、ようやくある事を考えはじめたのだった。
「もし元気になったら・・・何をしよう。オレは何がやりたいんだ?」と。

幸いにも考える時間だけはたっぷりあった。

仕事・義務・責任・お付き合いetc.・・・今まで時間を様々な事に費やして来たけれど「やらなくちゃならないこと」はとりあえず置いておき、「本当に今自分は何がやりたいのか?」を自分自身に問いかけてみた。

頭の箱の中にやりたいことをグシャッと放り込み、一つ一つを断捨離していく。

そして箱の底に最後の最後に残ったのが、驚くことに「アイスホッケーのOB戦に行きたい!」というものだった。
OB戦とは大学時代のアイスホッケー部の仲間が年に一度函館に集い、現役vsOBで試合をし、夜には酒を酌み交わすという恒例行事だ。

「みんなとホッケーがやりたい!そして、酒を酌み交わしながらワイワイとやりたい!!」その思いが頭の中でどんどん広がっていく。

実はそう思ったのには理由がある。

病院で過ごした暇な時間・・・。
何気なく見ていたPCに入っている過去の写真・・・。
その中のOB戦の写真を見ていた時に驚いた。

(オレってこんな楽しそうな顔するんだっけ?)

病室の鏡に映った自分の顔と、函館で楽しく過ごしている自分の顔。
まるで別人のように楽しそうなのである。

子供の頃に夕暮れまで近所のガキ大将達と毎日遊んだのと同じように、函館の屋外のリンクで辺りが暗くなるまでパックを追う・・・そんな事がやりたかったのだ。

大げさに聞こえるかも知れないが、それまで失いかけていた「生きる意欲」というものが再びふつふつと沸いてくるのを感じていた。
子供の頃は遊びの後には家族団らんの夕餉が待っていて、一日の楽しかったことを母に報告するのが日課だった。

OB戦では家族団らんの夕餉ではなく「同じ釜の飯を食った仲間との宴会」、そして母に報告した楽しい一日ではなく「仲間と語る今日の楽しかったことと昔の楽しかったこと」なのである。
私の心の中にあるものをそぎ落としてシンプルにシンプルに「やりたいこと」に絞っていくと、そんな事がやりたいこととしてくっきりと浮かび上がって来たのだった。

「また、楽しそうな自分を取り戻したい!」
こんな風に書くと大げさに聞こえるかも知れないが、PCの向こうの自分が今の自分に

「せっかく生き延びたんだから楽しく行こうぜ!」

そんな風に語り掛けているように思ったのも事実だ。

毎年恒例のOB戦は2月上旬。
この日からわずか20日後に迫っていた。

(続く)