八歳で閉じた扉と、開け直してくれた先生の話~「第三章|「怖い先生」との出会い」
小学校時代はそんな調子だったが、日常生活ではそれなりに活発な子どもだった。
ただ、いざという時に人の影に隠れる癖がついたのは、このトラウマが影響していたのかもしれない。
時は流れ、中学校に入学する。
入学後まもなく、体育館で全校集会が開かれた。
壇上に立っていたのは、生徒指導担当の教師、M先生。
笑顔はなく、厳しい言葉を次々と投げかける。
集会後、クラスメイトは口々に言った。
「あの先生、怖いな……」
私も同じ印象だった。
(あの先生にだけは、口ごたえしてはいけない)
そう心に決めた。
数日後、音楽の最初の授業。
教壇に立っていたのは、あのM先生だった。
授業の冒頭、先生はこう言った。
「音楽について、思っていることを何でもいい。一人ずつ話してくれ」
前の生徒たちは無難な発言を続ける。
「NSPや井上陽水が好きです」
「ピアノを習っています」
「ギターが弾けるようになりたいです」
いよいよ私の番。
怖い先生。
音楽の教師。
ここで否定的なことを言えば、どうなるかわからない。
それでも私は、覚悟を決めた。
「私は、歌を歌うのが大嫌いです」
一瞬の沈黙。
怒られると思った。
しかし先生は静かに聞き返した。
「……音楽は、聴くのも嫌いか?」
「……いえ。聴くのは嫌いではありません」
「そうか。じゃあ、どうか音楽を嫌いにならないでほしい。音楽を"楽しんで"ほしい」
あの怖い顔とは違う、どこか悲しそうで、優しい表情だったことを、今でもはっきり覚えている。
—この一言が、私の人生を「変えた」というより、「救った」。



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