5年前のとある出来事~その13 医師からの説明~

入院して2週間近く経った頃医師から詳しい説明を受けた。
画像を見せてくれながらの説明はとてもわかりやすかった。

搬送時には止まっていた血流がステント手術により再開した事が素人目にもはっきりわかった。

色々と原因は考えられ、コレステロール値などが大きく影響するとの説明があった。
だが、私の場合には意外とコレステロール値はそれほど高くはないらしい。
他にはストレスなどの要因も大きいとの説明があった。

ストレスに関しては確かに思い当たる節が無いわけではない。
「忙しいことが多かったですから」
との私の返答にこの若い医師は
「医学的根拠は無いが・・・」
と前置きをした上でこんな話をした。

「人間って意外と忙しい時には病気をしない。気を抜いた瞬間や落ち着いた時がむしろ病気にかかりやすい。
忙しく元気に働いていた人が定年退職してのんびりした途端に病気になるとかね。」

入院当初からこういったユニークな表現をすることが多いこの医師が私は好きだった。

一安心するとともに、私はどうしても気になっていたことを聞かなくてはならないと思っていた。
「あの・・・運動はしてもいいでしょうか?例えばアイスホッケーとか・・・」
恐る恐るの質問に医師は笑いながらこんな風に答えたのだった。

「運動せずにこれ以上太るぐらいならどんどん運動して痩せなさい」

私はやっぱりこの医師のユニークな表現と笑顔が好きだ。
行きたかったアイスホッケーのOB戦が俄然楽しみになった。

ここで医師は再び険しい表情となりこんな話を続けた。
「心筋梗塞は悲しいかな何割かは救えない。早い時間の処置が何より大事だ」
「こちらの病院に搬送されるまで随分待たされましたが・・・」

「だとしたら・・・・君には何かまだやらなきゃならない使命があったのだろう」

笑いながら言ったこの医師の事がさらに好きになった。

一通りの説明を受けた後に気になっていた最後の質問を投げかけた。
「あの・・・同じ日に搬送されたICUで隣になった方は?」
「あの日は君を含め3名が搬送されてきた。隣の方は・・・残念ながらまだ意識は戻っていない」

ICUでカーテンを隔てた隣の患者さん。
あの時の自分は気力もなくただ夢の中の出来事のようにぼんやりと聞いていただけだったが、奥さんとお子さんの呼びかける声がリアルに蘇ってきた。

なんとか元気に回復して欲しい。
そう思わずにはいられなかった。

席を立つ医師が去り際にもう一度言った。

「君には何か使命があるんだろう」

今度は笑顔ではなく真顔で言ったその表情が印象的だった。

(続く)

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