5年前のとある出来事~その12 麺類が食べたい~
病室に戻り、看護師さんの定期巡回の時にこう告げた。
「昼食を麺類に変更できると書いてありましたよ。麺類でお願いします!」
「あらそうなの?そんな事ができるの?」
実は入院直後で身動きが取れないときから
「食事を麺類にすることはできませんか?」
「食事は選べません!」
ぴしゃりと言ったのもこの看護師さんだった。
仮にイジワル子さん(仮名)としておこう。
過去の自分や家族の入院時に麺類を選択できる病院が多かった事から投げかけた質問なのだが、きっぱりと言い切られたので残念だが仕方が無いと諦めていた。
(あらそうなの?・・・って)
やや釈然としない思いも残ったが、とにもかくにも明日の昼には麺が食べられる!
のびきったそうめんだろうと、ぬるいうどんだろうと全然構わない。
麺を啜れるだけで充分だ
翌日の昼ご飯を考えると自然と笑みがこぼれた。
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さて楽しみにしていた麺類が提供されるはずの翌日の昼食。
ところが運ばれてきたのは普通のご飯。
運んできたのは例のイジワル子看護師さんだ。
「あの・・・昨日、昼食は麺類をお願いしましたよね?」
「依頼をした時間が遅かったから明日からなんじゃない?」
自信満々に「依頼をした」と答えられると諦めるしかない。
モソモソとお米のご飯を食べながら(もう一日の辛抱だ・・・。)と自分に言い聞かせた。
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そして翌日、いよいよ麺類とご対面!
・・・と思ったのだが、やはり運ばれてきたのは米飯の昼食だった。
運んできたのは別な看護師さん(仮にこの看護師さんをヤサシ子さん(仮名)としよう)だった。
ヤサシ子看護師さんとは入院当初から気が合い、この頃には「ため口」で冗談を言い合う仲だった。
「え?・・・一昨日昼食を麺類に変更するようにお願いたんだけど?」
「え?聞いていないし引き継ぎの時にも何も言われなかったわ」
「いやいや!おかしいでしょっ!」
ちょっと自分でも引くぐらい文句を言ってしまった。
別に昼食が出されないわけではなく、たかが麺類が出てこなかっただけでだ!
そしてこのヤサシ子さんには何も責任が無いにも関わらずだ。
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夕方わざわざ婦長さんらしき方がやってきてお詫びをしてくれた。
だが、心の狭い自分は、まだ収まりがついていなかった。
入院患者にとっていかに食事だけが楽しみなのか、イジワル子さんが麺類に変更できる事すら知らなかったのは勉強不足ではないのか、自信満々に変更依頼をしたこと、引継ぎもされていない事etc.グチグチ、ネチネチと文句を言ってしまったのだ。
心が元気になったのはいいけれど、あきらかに向ける方向のベクトルが間違っている。
ついでにいかに自分が麺類が大好きでそれを楽しみにしていたかも付け加えた。
そんな話は看護師さんにしてみればどうでも良い話なのに。
今考えても自分の小ささに恥ずかしくなる。
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そして、その翌日待ちに待った麺類が提供された。
冷たいそうめんだった。
久しぶりの麺類はとても美味しかった。
だが、その一方で自分の心の狭さとクレーマーのような振る舞いを思い出し、心の底から楽しむことはできなかった。
翌日以降退院まで毎日昼食には麺類が提供された。
だが、同時にヤサシ子さんがその日以降ため口で語り掛けてくれることはなかった事、イジワル子さんが私の担当から外れたのかその日以降病室で顔を見ることは無くなった事・・・。
入院期間中で最も気がかりな出来事になってしまった。
ちなみにイジワル子さんは一度もお詫びには来なかったがそれはどうでも良い。
命を救うために献身的に看護やサポートをしてくださった看護師さんたちに、たかが昼食のメニューが違うだけで駄々をこねた自分。
ヤサシ子さんにはもちろん婦長さんにも、そしてイジワル子さんにも改めてお詫びをしたい。
折角湧いてきた生きる気力をなんでバカバカしい方向に向けていたんだろう。
今思い出しても恥ずかしくて情けない事件だった。
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